「目的地まで行ってから
その前で怖気づくのと、どっちが良い?」
ルジュにそう言われ、レイジは渋々ながらも街の東側に来ていた。
正確には、西側で見つけた数人の後を追って来た。
ルジュやベルクの姿は、ここには無い。
レイジは、ローブ姿の面々が宿に入るのを黙って見つめ―――声は掛けそびれた。
朝から何度か、こんなコトを繰り返している。
情けないと思いながらも、レイジは未だに近付いてすらいない。
他の人は、大丈夫になったのに。
まさか自分の中で、同族がこれほど特別だとは思いもしなかった。
ベスティ達はもちろん、話を小耳に挟んだ常連客の数人までもが
付き添いを申し出てくれたのを、レイジは意地で断ってしまっていたのだが。
もちろん今、木陰で
祭典には、色んな場所から人がやって来るのだから
この街で見た、何倍もの数が集まるに決まっている。
―――こんなんじゃ、ダメに決まってる
帰ろうかとも思ったが、意地を張ってしまった手前、それも難しい。
泣きそうになっている自分に気付いて、余計に落ち込む。
そんなレイジの視界の隅で、通行人の足が止まった。
顔を上げると、殺気立った様子の大人の豹族の男と目があった。
「おまえか、朝から後を
どうやら、いつの間にか目を付けられていたらしい。
―――まずい
その顔を見て、レイジは凍りついた。
全身くまなく総毛立たせて、逃げようと立ち上がる。
ドギャッ
突然、目の前の男の頭に、真横から脚が突き刺さる。
それが飛び蹴りだったと気付くのに、少し時間がかかった。
何が起きたのか分からずに、戸惑うレイジの肩に手が置かれた。
それは蹴りを放ったと思われる、これまた豹の男の手だ。
「このバカ兄貴、怯えてんじゃねーかよ!」
レイジの横の男は、蹴り飛ばした相手に向かって怒鳴ると
こちらに向き直って、頭を下げた。
「兄貴が”軽くおどかしてやる”って聞かなくて。
止めようとしたんだけどな…怖がらせて悪かった」
「…大丈夫なんですか、さっきの…」
それには構わず、レイジは先ほどの男を気にしていた。
ずいぶん豪快に吹き飛んだようで、姿が見えない。
「いや、まさかあんなに怖がられるとは思わなかった…」
その男がいつの間にか、レイジの前に現れたので思わず身構えた。
姿が見えなかったのは単に、起き上って歩いていたからか。
「だから、やめろって言っだだろ」
弟の目線に射抜かれて、兄も謝ったが…この二人、良く似ている。
「ああ、俺達双子なんだ…俺が弟のジェグ、こっちのバカがパッド」
その言葉に、兄の方は渋い顔をしていたが何も言わなかった。
「…あ、レイジって言います」
とりあえず、名乗っておく。
「で、俺達に何か用があるんだろ?」
最初の動揺が過ぎ去ると、レイジは不安になって来た。
このジェグと名乗る男の笑顔は、ホンモノだろうか。
「もしかして、祭典に一緒に行きたいのか?」
重ねて問われるが、レイジは固まってしまって何も答えられない。
「でも、家族とは一緒じゃないのか?」
兄のパッドが、首をかしげる。
「…あ、皆は、その、先に行っちゃってて。後から来いって」
とっさに嘘をついた。
できるなら、この話は避けて通りたい。
「なら、良いか?」
「構わないだろ」
二人は素早く目で合図をすると、レイジに向き直って手を出した。
「連れてってやるよ、ほら」
レイジは手を取る代わりに、ぎゅっと拳を握りしめた。
自分の息が少し浅くなったと、レイジは気付いた。
こんな風に接してくれた後は、決まって嫌なコトがあった。
何処か知らない場所に、置いていかれないだろうか。
もしかしたら、胸の印で騒がれるかもしれない。
嘘かも知れない。
そう思うと、手をとれなかった。
一瞬の内に、様々な考えがよぎっては消える。
―――やっぱりダメだ、オレには無理だ。
もう弱虫でも何でも良い、つまらない意地を張ってる場合じゃない。
怖い。今にも震えそうなほどに。
何か理由を付けて、引き返そう。
祭典なんて、どうでも良いじゃないか。
「やっと見つけた、ここに居たのか」
その声に、ジェグとパッドは後ろを振り返った。
レイジの前に現れたのは、ベルクだった。
実のところ、ベルクはずっとレイジの様子を見ていた。
さすがに見かねて、今見つけたように声を掛けたのだが
もしかしたら、レイジには察しが付いているかも知れない。
「ベルクって言います。俺も途中まで、ついていって良いですか?」
ベルクはにこやかに名乗った。
「途中までって…どうして君が道を知ってる?」
兄の言葉に、弟が頷いている。
「だって、街のどこを出入りするか調べれば、見当はつくでしょ?
そこの友人が心配なだけです――道中、自分の面倒は自分で見ます」
うーん、と双子は同じ仕草で少しだけ頭を捻って。
やはり同時に、レイジに向き直った。
「こう言ってるけど…この子、友達?」
レイジはジェグにしっかりと頷いて見せた。
「立ち話をして、これ以上人が増えても面倒だ―――行くぞ」
パッドに従って、三人は宿へ足を運ぶ。
ジェグの後ろで、レイジはベルクに
「練武場はどうするんだよ?」
「さぁ? レイジの話をすれば、分かってくれるだろ」
ベルクはあっさりと答える。
気を遣わせたと分かっていたから、レイジは何も言わなかった。
本当は一言、礼を言えれば良かったのだけど。
こんな展開もあると踏んで、ベルクは既に準備を整えていた。
持ち歩いたことの無い、金や保存食は、ベスティ達に工面してもらったが
最悪、いつも通り野宿の用意もあるし、現地で食糧を手に入れれば良い。
メドウが植物図鑑をくれたし、簡単な罠の作りも教えてもらった。
「新入り連れてきたぞー」
宿は実質上、貸し切り状態になっているようで
宿中に響く声でジェグが扉を開けると、中はズラリと豹族で埋まっていた。
それを見て、レイジは身を縮めながらも、背中を押されて中へ足を踏み入れた。